せかいのおきく

ニッポンと話そうプロジェクト第一弾作品

短編映画「せかいのおきく」
監督 阪本順治
主演 黒木 華 寛 一 郎

自然も人も死んで活かされ、生きる

近年、東京で雪が降るのは珍しい。しかし、江戸の錦絵には雪景色の風景が数多く描かれている。気温が低かった江戸時代では、凶作により飢餓に苦しんだ時期もあったそうだ。しかし、幕末には猛暑の夏が何度か続いた記録があり、寒い時期がいつまで続いたのかは定かでない。
映画は万延元年の長屋が舞台となっている。当時、庶民の住まいのほとんどが長屋だった。食事といえば、ごはん、味噌汁、漬物。たまに食べる魚は安い鰯が定番で、雑穀を主食にしていた農民と違い、江戸では白米を食べることができた。
とはいえ、同じ長屋で暮らしていても稼ぎの差があったのも、また然り。腹いっぱい白米を食べることができた人ばかりではない。劇中に登場する「下肥買い」や「古傘買い」は大工や髪結に比べて、割の悪い仕事だったことは間違いないだろう。

それでも、江戸時代にはたくさんの修理・再生業者が存在し、そうした生業が、ものを捨てることなく大切にするのと同時に、庶民の収入源となり生活を支えていた。
欠けたり割れたりした瀬戸物を「焼き接ぎ」する職人や「鋳掛屋」と呼ばれる、古い鍋や釜など鋳物製品の修理・修繕を行う職人、すり減った下駄の歯の部分だけを差し替える「下駄の歯入れ」、桶や樽の箍(たが)を締め直す「箍屋(たがや)」など、あらゆるものを修理してくれる職人が江戸の町にあふれていたという。

再利用で有名なのは、不要になった帳簿などの製紙品を買い取って、漉き返す業者に販売していた「紙屑買い」、江戸の町には四千軒もの商人がいたといわれる「古着屋」、古くなった傘を下取りして紙を張り替え、骨を削り直して新品同然に再生する「古傘買い」、そして「下肥買い」である。

江戸時代では、糞尿は農業を営むうえで欠かせない肥料として、価値あるものだった。当時、長屋の借家人は共同の厠を使用していた。江戸ではそこに溜まった糞は家主のものとなり、「下肥買い」を通じて農家に肥料として売却される。

下肥買いは肥桶を担いで厠をまわり、江戸で排泄された大量の糞尿を舟に積んで、近郊の農村まで運んでいく。窒素やリンを豊富に含んだ有機肥料を入手できると、農民たちは競ってそれを求めたそうだ。
そして、長屋の厠の糞尿は家主の貴重な収入源となるので、借家人は家賃を滞納したぐらいでは追い出されることはなかったという。京では尿も棄てずに資源にしていた。尿は糞のように発酵させる必要がなく、即効性の高い肥料になるので野菜と交換されて、それは借家人のものになっていたらしい。
修理・再生業者が多かった背景には、製品のほとんどが有機物で成り立っていたことも関係しているといわれるが、超低成長のゆるやかな時代で、今後も大きく生活や産業が変わらないと認識していたからこそ、子孫の世代まで考えて、資源を大切にし、製品は修理して維持することを心がけていたのだろう。

さらに付け加えておくと、修理・再利用だけでなく、物を大切に何度も使うのは当たり前のことだったので、寺子屋(庶民の子供のための学校)で使う教科書は学校の備品として扱われ、一冊の算術の教科書が百九年間使われていたという記録が残っている。
もちろん、次々と新しいものを買わなければ経済は発展しない。だが、江戸時代は資源が限られていたからこそ、使えるものは何でも使い切り、土に戻そうという文化が人々に浸透していた。
戦国時代末期、ポルトガルの宣教師ルイス・フロイスは「我々は糞尿を運び去る人に金を払う。日本では、それを買い、その代償に米と金を払う」と書き記している。当時の日本はサーキュラーエコノミー(循環型社会)の最先端にいたということだ。

この映画は、長屋に暮らす「おきく」という女性と、その長屋に糞を買いに来る下肥買いの「中次」という男の物語。

人は、楽しく、おかしく、悲しく、一生懸命に生きて死んでいく。
人間も死んだら土に戻って自然に帰り、自然の肥料となる。いつの時代も人には大切な誰かがいて、その想いを伝えるのは難しい。そんな人生の物語や想いもまた、肥料になる。この映画に込めた想いが、観た人たちの肥料になることを願っている。

キャスト

黒木 華/おきく

1990年、大阪府出身。
2010年、NODA・MAP番外公演「表に出ろいっ!」のヒロインオーディションに合格し本格的にデビュー。
NODA・MAP第16回公演「南へ」、阿佐ヶ谷スパイダース「荒野に立つ」、蜷川幸雄演出「あゝ、荒野」(すべて11)に参加し、演劇界の期待の新人として注目を集める。
2011年に『東京オアシス』で映画デビュー。『シャニダールの花』(13)で初主演を務める。
山田洋次監督作『小さいおうち』(14)では、第64回ベルリン国際映画祭で銀熊賞(最優秀女優賞)を受賞。
2016年、岩井俊二監督『リップヴァンウィンクルの花嫁』(16)では初の単独主演を果たし、日本アカデミー賞優秀主演女優賞を受賞。また同年、「重版出来!」でドラマ初主演も果たす。
その他の出演作に舞台「書く女」(16)、「お勢登場」(17)、「ハムレット」(19)、ドラマ「みをつくし料理帖」(17)、「西郷どん」(18)、「凪のお暇」(19)、映画『日日是好日』(18)、『来る』(18)、『甘いお酒でうがい』(20)『浅田家!』(20)、『星の子』(20)など。

寛 一 郎/中次

1996年生まれ、東京都出身。2017年に『菊とギロチン』で俳優デビュー。公開順序はそれに先立つかたちとなったが、『ナミヤ雑貨店の奇蹟』、『心が叫びたがっているんだ。』(17)にも出演。その他の出演作として、『チワワちゃん』、『雪子さんの足音』、『下忍赤い影』、『下忍青い影』(19)、『劇場』『一度も撃ってません』『泣く子はいねぇが』『AWAKE』(20)、ドラマでは「ミッドナイト・ジャーナル 消えた誘拐犯を追え!七年目の真実」(18/TX)、「青と僕」(18/CX)、「グランメゾン東京」(19/TBS)などがある。受賞歴として、第27回 日本映画批評家大賞 新人賞、第92回 キネマ旬報ベスト,テン 新人男優賞、第33回 高崎映画祭 最優秀新進男優賞、第28回 日本映画批評家大賞 助演男優賞がある。

スタッフ

脚本・監督/阪本順治

脚本・監督/阪本順治

1958年生まれ、大阪府出身。大学在学中より、石井聰亙(現:岳龍)、井筒和幸、川島透といった〝邦画ニューウェイブ〟の一翼を担う監督たちの現場にスタッフとして参加する。89年、赤井英和主演の『どついたるねん』で監督デビューし、芸術推奨文部大臣新人賞、日本映画監督協会新人賞、ブルーリボン賞最優秀作品賞ほか数々の映画賞を受賞。満を持して実現した藤山直美主演の『顔』(00)では、日本アカデミー賞最優秀監督賞や毎日映画コンクール日本映画大賞・監督賞などを受賞、確固たる地位を築き、以降もジャンルを問わず刺激的な作品をコンスタントに撮り続けている。2016年には斬新なSFコメディ『団地』で藤山直美と16年ぶりに再タッグを組み、第19回上海国際映画祭にて金爵賞最優秀女優賞をもたらした。その他の主な作品は、『KT』(02)、『亡国のイージス』(05)、『魂萌え!』(07)、『闇の子供たち』(08)、『座頭市THE LAST』(10)、『大鹿村騒動記』(11)、『北のカナリアたち』(12)、『人類資金』(13)、『ジョーのあした│辰𠮷𠀋一郎との20年│』(16)、『団地』(16)、『エルネスト』(17)、『半世界』(19)、『一度も撃ってません』(20)などがある。

企画・製作/原田満生

企画・製作/原田満生

1965年生まれ。美術監督として阪本順治監督などの作品に多数参加したのち、セットデザイナーを経て、98年『愚か者/傷だらけの天使』(阪本順治監督)で美術監督をつとめる。『顔』(00年/阪本順治監督)、『ざわざわ下北沢』(00年/市川準監督)では、第55回毎日映画コンクール美術賞、第20回藤本賞特別賞を受賞。さらに、05年『亡国のイージス』(阪本順治監督)で第29回日本アカデミー賞優秀美術賞、07年『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』(松岡錠司監督)で第31回日本アカデミー賞優秀美術賞を受賞し、一躍脚光を浴びる。『テルマエ・ロマエ』(12年/武内英樹監督)、『北のカナリアたち』(12年/阪本順治監督)の2作品で第36回日本アカデミー賞優秀美術賞を受賞。さらに、『舟を編む』(13年/石井裕也監督)、『許されざる者』(13年/李相日監督)の2作品で第37回日本アカデミー賞優秀美術賞を受賞。同じく『舟を編む』では第68回毎日映画コンクール美術賞を受賞。その他、『TOKYO! (SHAKING TOKYO)』(08年/ポン・ジュノ監督)、『テルマエ・ロマエⅡ』(14年/武内英樹監督)、『バンクーバーの朝日』(14年/石井裕也監督)、『深夜食堂』(15年/松岡錠司監督)、『散り椿』(18年/木村大作監督)、『日日是好日』(18年/大森立嗣監督)など、多数の映画美術監督を務める。

原田満生オフィシャルサイト

映画情報

題名
『せかいのおきく』
企画・製作
原田満生
脚本・監督
阪本順治
撮影
笠松則通
キャスト
おきく … 黒木 華
中次 … 寛 一 郎

ご協賛のお願い

「ニッポンと話そう」プロジェクト第二弾映画製作決定!

第一弾短編映画『せかいのおきく』に続いて、第二弾映画の製作が決定しました! 『せかいのおきく』の続編か!? 今までにない、サーキュラーバイオエコノミー長編時代劇を製作します!監督は、阪本順治監督。超豪華な俳優陣で映画を盛り上げていきます!

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株式会社HM/担当者 原田満生
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